朝の通学電車、いつもより混んでいた。 同じバスケ部の先輩・ツバサさんが目の前に立ち、つり革につかまる僕の真上から「おはよう」と低く笑った。
電車が揺れるたび、ツバサさんの胸が僕の背中に当たる。最初は偶然だった。でも二度目、三度目は、ツバサさんがわざと体を寄せているのがわかった。
「……こういうの、慣れてるの?」
耳元で囁かれて、僕の手はつり革から離せなかった。
ツバサさんはスーツケースみたいな鞄で周りの目を遮りながら、僕の制服のスラックスにそっと手を添えた。 「先輩、まさか……」と抗議の声を出しかけたけど、電車のアナウンスにかき消された。
終点の二駅前、ツバサさんは何事もなかったように「じゃあな」と降りていった。 僕だけ、次の駅まで座れずに立ったまま、窓に映る自分の赤い顔を見つめていた。